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浦和地方裁判所 平成10年(ワ)1551号 判決 1999年9月14日

原告

篠﨑芳子

被告

渡邉源司

主文

一  被告は、原告に対し、金一七五一万八一九八円及びこれに対する平成七年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金四六八〇万六九〇四円及びこれに対する平成七年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告に対し、原告乗車の普通乗用自動車が、対向して走行してきた被告運転の普通乗用自動車と正面衝突した交通事故により傷害を負い、後遺障害が残存したと主張して、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条による損害賠償を求める事案である。

二  争いのない事実等

(以下の各事実については、証拠を掲記した事実は当該証拠によりこれを認め、その余の事実は当事者間に争いがない。)

1  事故の発生

次の交通事故が発生した(以下、この事故を「本件事故」という。)。

(一) 発生日時 平成七年九月一七日午前一一時三〇分ころ

(二) 発生場所 埼玉県南埼玉郡菖蒲町大字臺三二三番地一先路上

(三) 事故の概要

栗田秋雄が運転し、原告が同乗する普通乗用自動車(習志野五四ゆ五六四五)(以下「原告車」という。)が走行中、対向して走行してきた被告運転の普通乗用自動車(大宮五九ろ八一一二)(以下「被告車」という。)が、その前方を走行していた車両が路上に溜まっていた雨水を跳ね上げたため急ブレーキを掛けたところスリップし、センターラインを越えて原告車走行車線に飛び出して原告車と正面衝突し、これにより、原告は、傷害を負った。

2  被告の責任原因

被告は、被告車の自賠法二条三項に定める保有者であり、運行供用者として、自賠法三条に基づき、本件事故によって原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の傷害及びその治療状況

原告は、本件事故により、外傷性脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、歯牙欠損の傷害を負い、次のとおり治療を受けた(甲二、三、五の一及び二、六の一及び二、七、八、一〇の一ないし一一)。

(一) 平成七年九月一七日(本件事故当日)から平成八年四月一六日まで、医療法人顕正会蓮田病院(以下「蓮田病院」という。)に入院した(入院日数二一二日)。

(二) 平成八年四月一七日から同年六月二二日まで、農協共済中伊豆リハビリテーションセンターに入院した(入院日数六七日)。

(三) 平成八年六月二四日から同年七月二六日までの間のうち六日間、田原歯科医院に通院した。

(四) 平成八年七月八日から平成九年四月一四日まで及び同年五月二日から平成一〇年三月六日までの間のうち三七日間、蓮田病院に通院した。

(五) 平成九年四月一五日から同年五月一日まで、蓮田病院に入院した(入院日数一七日)。

(六) 平成一〇年三月九日から同年八月五日までの間のうち一二日間、東大宮病院に通院した。

4  原告の後遺障害

原告の傷害(歯牙欠損を除く。)は、平成八年六月二二日に症状固定したが、原告には、頭痛、頭頸部痛、右股関節痛、視野狭窄、めまい、ふらつき等の自覚症状を伴う失調性歩行等の後遺障害が残存した(甲二、九)。

5  損害の填補

被告は、原告に対し、本件事故による損害賠償として二四四四万九八四二円を支払った。

三  争点

1  損害額について

原告の主張する損害の内訳及び請求額と、これに対する被告の主張は、次のとおりである(なお、特に掲記しない限り、被告は否認し又は争う。)。

(一) 損害の内訳

(1) 治療費 七〇七万六〇八二円

原告の支払分二九万六二四〇円(蓮田病院分二三万五三七〇円と東大宮病院分六万〇八七〇円の合計)及び被告の支払分六七七万九八四二円の合計(被告支払分については争いがない。)

(2) 入院付添看護費 一二万六〇〇〇円

原告の長女が、平成七年九月一七日から三週間、入院中の原告に付添看護をしたものであって、一日当たり六〇〇〇円の三週間分

(3) 入院付添人交通費 一万九七四〇円

原告の長女が、右付添のため、自宅のある与野市から蓮田病院まで通ったが、その電車及びバス代片道四七〇円の二一往復分

(4) 入院雑費 三八万四八〇〇円

入院一日当たり一三〇〇円の二九六日分

(5) 一時帰宅費用 七八五〇円

原告は、蓮田病院に入院中の平成八年二月一五日、家の状況が気になって帰宅したが、その往復のタクシー代

(6) 転院費用 七万八七二五円

原告が蓮田病院から中伊豆リハビリテーションセンターに転入院するために要した費用

(7) 通院交通費 二八万九〇〇〇円

<1> 蓮田病院への通院に要したタクシー代一往復七〇〇〇円の三七往復分

<2> 東大宮病院への通院に要したタクシー代片道二五〇〇円の一二回分(帰路は長男に送ってもらうため不要)

(8) 通院付添費 一六万五〇〇〇円

通院には付添を要し、栗田秋雄又は原告の長男若しくは長女が付き添ったものであり、通院一日当たり三〇〇〇円の五五回分

(9) 将来の治療費等 五五三万四三二二円

<1> 将来の治療費等 二三七万一八五二円

原告は、今後一五年間にわたり、東大宮病院に一か月当たり二回通院して、後遺障害に係る痛み止め、痙攣防止等のための投薬等を受ける必要があり、一か月当たりの平均治療費として七〇〇〇円、同交通費として片道分タクシー代五〇〇〇円、同通院付添費として六〇〇〇円の一五年間分(新ホフマン係数により中間利息を控除)合計二三七万一八五二円が損害となる。

(計算式)

(7000円+5000円+6000円)×12×10.9808=2,371,852円

<2> 将来の介護費 三一六万二四七〇円

原告は、一人住いであり、今後一五年間にわたり、日常生活において、掃除、買物等に介助を必要とする。介助は、一回三時間、一か月平均一〇回必要であり、その費用は一時間当たり八〇〇円である。したがって、一五年間に介助に要する費用(新ホフマン係数により中間利息を控除する。)三一六万二四七〇円が損害となる。

(計算式)

800円×3時間×10×12×10.9808=3,162,470円

(被告の主張)

右介護費は、本来逸失利益に包含されるべきものである。

(10) 自宅改造費 六万円

原告は、後遺障害により歩行が困難となり、これに対応するため、自宅に、階段手摺りの取り付け、トイレ、風呂場の改造工事をし、六万円を要した。

(11) 休業損害 二一五万九〇〇〇円

原告は、本件事故当時五八歳(昭和一二年一月一六日生)で、平成七年二月二八日に協栄生命株式会社を退職した後求職活動中であり、アルバイトもしていた。したがって、原告の月収は、自動車損害賠償責任保険損害賠償査定要綱に定める年齢別平均月額給与額における五九歳女子の平均給与月額である二三万二二〇〇円とするのが相当であり、また、原告の休業期間は、平成七年九月一七日から平成八年六月二二日までの二七九日間である。したがって、原告に生じた休業損害は、二一五万九四六〇円である。

(計算式)

232,200円×279日/30日=2,159,460円

(被告の主張)

原告は、本件事故当時無職であり、就労の目処は立っていなかった。また、仮に休業損害が生じたとしても、その算定の基礎は、アルバイト代程度又は原告の平成六年度の所得である二一三万一六一〇円を下回る金額とすべきである。

(12) 後遺障害による逸失利益 一八九〇万九〇〇九円

原告の月収は前記(11)のとおり二三万二二〇〇円であるところ、原告の後遺障害は、自賠法施行令別表に定める後遺障害等級第五級に相当するから、原告は七九パーセント労働能力を喪失した。そして、原告は、一一年間(平均余命年数の二分の一)にわたり稼働可能であったから、新ホフマン係数により中間利息を控除すると、原告が逸失した利益は、一八九〇万九〇〇九円となる。

(計算式)

232,200円×12月×0.79×8.5901=18,909,009円

(13) 厚生年金受給資格喪失による逸失利益 一一四一万六七五八円

原告は、本件事故前の平成七年二月末日に協栄生命保険株式会社を退職するまでに、厚生年金保険に一二年九月加入しており、退職後も厚生年金保険に加入できる職を探すとともに、厚生年金保険第四種被保険者資格取得の申立てをしていた。そして、春日部社会保険事務所から、平成七年九月二〇日付けで右申立ての受理通知が原告宛に発送され、同年一〇月二〇日付けで、所定の保険料を同月三〇日までに納付すべき旨の督促状が原告宛に発送されたが、原告は、本件事故により入院中であったため、原告の自宅に配達された右通知及び督促状の存在を知らず、そのため、保険料の納付期限を徒過し、右期限の翌日の同月三一日をもって第四種被保険者資格を喪失した。また、原告は、本件事故により、就業不能となって第二種被保険者資格を取得することができなくなった。原告は、右の第二種被保険者資格又は第四種被保険者資格の喪失のため、将来の厚生年金の受給権を喪失した。原告が受給し得べき厚生年金額は年額八二万六二〇〇円であるところ、原告は、年金受給資格取得までの二七月間、月額保険料四万二九〇〇円を支払うことにより、右金額の年金を五九歳時の平均余命である二六年間にわたり受給することができたはずであるから、その総額(新ホフマン係数により中間利息を控除)から、支払うべき保険料を控除した金額の損害を被ったこととなる。

(計算式)

866,200円×(16.3789-1.8614)-42,900円×27月=11,416.758円

(被告の主張)

厚生年金受給権の喪失と本件事故との間には相当因果関係がない。

(14) 慰謝料 一九五〇万円

<1> 入通院分の慰謝料 四〇〇万円

<2> 後遺障害分の慰謝料 一五五〇万円

原告は、本件事故による前記後遺障害により、頭痛、めまい、右手右足の不自由、視力の減退、会話中に呂律が回らなくなることによる意志疎通不完全等に日夜悩まされている。また、原告には、本件事故により六本の歯牙欠損が生じ、補綴を加えたこと、被告側の対応の不誠実性等の事情を考慮すれば、後遺障害による慰謝料は一五五〇万円が相当である。

(15) 弁護士費用 四〇〇万円

(二) 請求額

原告の被告に対する請求額は、前記(1)ないし(15)の損害の合計額から、既に支払を受けた金額のうち二二九一万九八四二円を控除した金額である四六八〇万六九〇四円及びこれに対する本件事故の日である平成七年九月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

2  過失相殺

(一) 被告の主張

原告は、本件事故当時シートベルトを装着していなかったため、頭部をフロントガラスに強打し、これによって頭部についての傷害及び後遺障害が生じたものである。したがって、原告に一割の過失相殺を行うべきである。

(二) 原告の主張

原告が本件事故当時シートベルトを着用していなかったことは認める。しかし、原告は、座席をリクライニングした状態で寝ていたものであること等からすれば、仮にシートベルトを装着していたとしてもその効用には疑問があり、他方、被告の過失が重大であることを考慮すれば、損害の公平な分担の見地からは過失相殺を行う必要はない。

第三争点に対する判断

一  損害額(争点1)について

本件事故と相当因果関係を有する原告の損害(ただし、弁護士費用相当の損害を除く。)は、合計四〇三六万八〇四〇円であると認められ、その内訳は、次のとおりである。

1  治療費について 認定額七〇七万六〇八二円

被告支払分である六七七万九八四二円が損害となることは当事者間に争いがない。また、原告は、蓮田病院に対し、平成八年七月八日から平成九年四月一四日まで及び同年五月二日から平成一〇年三月六日までの間の通院三七日に係る治療費として五万一〇九〇円を、平成九年四月一五日から同年五月一日までの入院に係る治療費として一八万四二八〇円を、東大宮病院に対し、平成一〇年三月九日から同年八月五日までの間の通院一二日に係る治療費として六万〇八七〇円をそれぞれ支払ったことが認められる(甲六の一及び二、一〇の一ないし一一)ところ、証拠(甲八、九、二二の一及び二)及び弁論の全趣旨と原告の後遺障害の状況を併せれば、右入通院は、後遺障害からくる症状の緩和ないし予防のために必要であったと認めるのが相当であるから、右の原告支払分の治療費は、いずれも本件事故と相当因果関係を有する損害であると認められる。したがって、前記の争いのない額と右原告支払分である二九万六二四〇円(蓮田病院に対する支払分二三万五三七〇円と東大宮病院に対する支払分六万〇八七〇円の合計)を合計した七〇七万六〇八二円をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。

2  入院付添看護費 認定額一二万六〇〇〇円

原告は、本件事故当日から入院中の三週間にわたり付添が必要な状態であり、原告の長女が右期間付き添ったことが認められる(甲一一、原告本人、弁論の全趣旨)。右付添看護費相当の損害としては、一日当たり六〇〇〇円であると認めるのが相当であるから、その三週間分に相当する一二万六〇〇〇円をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

3  入院付添人交通費 認定額一万九七四〇円

右付添看護をした原告の長女は、右付添の期間である三週間、住居があり勤務先でもある与野市内から蓮田病院まで通い、これに要する交通費は、電車代及びバス代片道四七〇円であると認められる(甲一一)。したがって、その三週間分に相当する二一往復分一万九七四〇円をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。

4  入院雑費 認定額三八万四八〇〇円

前記二3のとおり、原告の入院期間は合計二九六日であるところ、入院雑費相当の損害としては、一日当たり一三〇〇円であると認めるのが相当であるから、その二九六日分である三八万四八〇〇円をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める(なお、平成九年四月一五日から同年五月一日までの蓮田病院への入院に係る雑費が本件事故と相当因果関係を有すると認められる理由は、前記1に説示したところと同様である。)。

5  一時帰宅費用 認定額七八五〇円

原告は、蓮田病院に入院中の平成八年二月一五日、自宅の様子が気にかかり、タクシーで一時帰宅し、その往復代金として七八五〇円を支払ったことが認められる(甲一二、弁論の全趣旨)ところ、右支払額をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

6  転院費用 認定額六万二四五一円

原告は、平成八年四月当時、リハビリテーション専門の施設への入院を要する状態であり、同月五日、右専門施設である中伊豆リハビリテーションセンターにおいて外来で受診し、その後、同月一七日から同センターに入院したこと、右受診及び入院のために、交通費等として合計六万二四五一円を要したことが認められる(甲五の一、一三の一ないし二五、原告本人)。したがって、右金額をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

7  通院交通費 認定額二八万九〇〇〇円

原告は、前記第二3のとおり蓮田病院及び東大宮病院に通院した際、タクシーを利用し、蓮田病院への通院については二五万九〇〇〇円(往復七〇〇〇円の三七回分を、東大宮病院への通院については三万円(片道二五〇〇円の一二回分)をそれぞれ下回らない金額を要したと認められる(甲一二、一四、原告本人、弁論の全趣旨)ところ、原告の後遺障害の状況に照らせば、右通院自体のみならず、そのためにタクシーを利用することも必要であったと認められるから、右各金額の合計をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。

8  通院付添費 認定額一六万五〇〇〇円

原告の後遺障害の状況に照らせば、蓮田病院及び東大宮病院への通院には付添が必要であったと認められるところ、通院付添費相当の損害としては、一日当たり三〇〇〇円であると認めるのが相当であり、付添五五日分に相当する一六万五〇〇〇円をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

9  将来の治療費等 認定額二一八万二〇一七円

(一) 将来の治療費等 認定額九三万五一五〇円

原告の後遺障害により症状及び従前のその治療状況に照らせば、原告は、今後とも東大宮病院に一か月二回程度通院し、痛み止めや痙攣防止等のための投薬等の治療を受ける必要があると認められ、その期間は、今後五年間を下回らないものと認められる(原告は、右期間を一五年間であると主張するが、医学的見地等からこれを認めるに足りる証拠はない。)。そして、従前の東大宮病院における治療状況に鑑みれば、一か月当たり、治療費として七〇〇〇円、通院交通費として片道のタクシー代に相当する五〇〇〇円、通院付添費として六〇〇〇円を要すると認めるのが相当である。したがって、右合計額の五年分から、これに相応するライプニッツ係数(四・三二九四)により中間利息を控除した金額をもって、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

(計算式)

(7000円+5000円+6000円)×12月×4.3294=935,150円

(二) 将来の介護費 認定額一二四万六八六七円

原告は一人住いである(原告本人)が、その後遺障害による症状及び従前のその治療状況に照らせば、日常生活を送る上で、一か月一〇回、一回三時間の介護を必要とする状態であり、これが今後五年間を下回らない期間継続すると認められる。そして、右介護に要する費用は、一時間当たり八〇〇円であるとするのが相当であるから、五年間に介護に要する費用は、一二四万六八六七円であり(右期間に相応するライプニッツ係数により中間利息を控除)、これをもって、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

(計算式)

800円×3時間×10回×12月×4.3294=1,246,867円

10  自宅改造費 認定額六万円

原告は、本件事故による後遺障害により歩行に困難を来たし、これに対応するために自宅に、階段手摺りの取り付け、トイレ、風呂場の改造工事を行い、これに六万円を要したことが認められ(甲一五、原告本人)、右額をもって本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

11  休業損害 認定額一五六万一九〇三円

原告は、本件事故当時五八歳の女性であって(昭和一二年一月一六日生)、昭和五九年八月一日から平成七年二月末日まで、協栄生命保険株式会社に勤務し、平成六年度には保険外交員としての報酬三八〇万六四四六円の支払を受けており、他方、市県民税の申告に係る総所得金額は、平成五年分が一九五万五〇九一円、平成六年分が二一三万一六一〇円であったこと、原告は、協栄生命保険株式会社を退職後、職を捜しつつ、アルバイトをしていたことが認められる(甲一六の一及び二、一七の一及び二、一八の一及び二、一九、乙一、二、原告本人)。右事実に鑑みれば、原告は、本件事故時においては、定職には就いていなかったものの、一年当たり、右市県民税の平成五年分及び平成六年分の申告に係る総所得額の平均である二〇四万三三五〇円の所得を得る蓋然性があったものと認めるのが相当である。したがって、原告は、平成七年九月一七日から症状固定日である平成八年六月二二日までの二七九日間にわたり、右所得を全額逸失したと認めるのが相当であり、その金額である一五六万一九〇三円をもって本件事故と相当因果関係を有する損害であると認める。

(計算式)

2,043,350円×279日/365日=1,561,903円

12  後遺症による逸失利益 認定額一〇四三万三一九七円

原告の後遺障害は、その状況に照らせば、自賠法施行令別表に定める後遺障害等級の五級に相当する程度であり、原告は、右後遺障害によりその労働能力の七九パーセントを喪失したと認めるのが相当である。そして、原告は、満六七歳までの九年間にわたり稼働可能であったと認められるから、右期間、一年間当たり二〇四万三三五〇円の七九パーセントの所得を喪失したと認め、右期間に相応するライプニッツ係数(六・四六三二)により中間利息を控除した額である一〇四三万三一九七円をもって、原告の後遺障害による逸失利益と認める。

(計算式)

2,043,350円×0.79×6.4632=10,433,197円

13  厚生年金受給資格喪失による逸失利益 認定額〇円

原告は、本件事故前の平成七年二月末日に協栄生命保険株式会社を退職するまでに、厚生年金保険に一二年九月加入しており、本件事故当時、厚生年金保険に加入することができる職を捜す一方、厚生年金保険第四種被保険者(厚生年金保険の被保険者期間が一〇年以上ある者が被保険者資格を喪失した場合に、被告保険者期間が二〇年(中高齢者においては一五年)に達していないときは、一定の条件の下に個人でその資格を継続することができ、これを第四種被保険者という。)資格を取得すべく、その申出をし、平成七年九月二〇日付けで右申出が受理され、春日部社会保険事務所長から、同日付けでその旨の通知が原告宛に発送されたこと、右資格取得には、所定の保険料を支払うことを要するところ、原告はこれを滞納し、同年一〇月二〇日付けで右保険料を同月三〇日までに納付すべき旨の督促がなされたが、原告は、右期限までにこれを納付せず、厚生年金保険法の定めるところにより第四種被保険者資格を喪失したことが認められる(甲二一の一ないし五、原告本人)。

そこで、検討するに、一般に、厚生年金受給者が不法行為によって死亡した場合には、右受給者が生存していれば受給することができたであろう年金の現在額をもって、同人の被った損害と観念することができると解される。しかしながら、本件においては、原告は、本件事故当時未だ厚生年金の被保険者資格を取得しておらず、厚生年金に加入できる職を捜していたといっても、そのような職に就けるかについては相当の不確実性があったといわざるを得ない。したがって、本件事故と右のような職に就くことができなくなったことによる将来の厚生年金受給権の喪失との間には、相当因果関係の存在を認めることができない。また、第四種被保険者資格については、なるほど、原告が本件事故により入院中であったために、原告の自宅に配達された資格取得申出の受理通知及び保険料の督促を現実に知る機会を失ったことは認められるが、他方、原告が右資格を取得するには、二七か月間にわたり、月額四万二九〇〇円の保険料を納付する必要があり、督促を受けた時点では、平成七年三月分から同年一〇月分までの合計三四万三二〇〇円の保険料を一括して納付する必要があったものであり(甲二一の三ないし五)、このように未だ保険料の支払を要する状態であったことに、当時の原告の収入の状況等に鑑みれば、このような金額を全額納付することができたかについてはかなりの不確定要素があったものといわざるを得ないことを併せて考慮すれば、本件事故と第四種被保険者資格の喪失による将来の厚生年金保険受給権の喪失との間にも相当因果関係を認めることができない。

以上のとおり、原告の主張は採用できない。

14  慰謝料 認定額一八〇〇万円

(一) 入院慰謝料

認定額三〇〇万円

原告の負傷の程度、症状固定までの入院期間(二七九日間)等を考慮すれば、原告の入院による慰謝料は三〇〇万円とするのが相当である。

(二) 後遺障害慰謝料 認定額一五〇〇万円

本件事故により六本の歯牙欠損が生じ補綴を余儀なくされたことを含む原告の後遺障害の程度に照らせば、後遺障害による慰謝料は一五〇〇万円とするのが相当である。

二  過失相殺(争点2)について

本件事故当時、原告がシートベルトを着用していなかったことについては当事者間に争いがないが、原告は、座席をリクライニングした状態で居眠りをしていたものであって(甲二二の一)、右シートベルトの不装着が原告に生じた傷害にどの程度寄与したかは不分明であること、その反面、本件事故の態様が、被告車の対向車線への飛び出しという被告の重大な過失によるものであること等を考慮すれば、原告のシートベルト不装着をもって過失相殺を行うことは相当でなく、被告の主張は採用することができない。

三  原告が被告に対して賠償すべき金額

1  以上によれば、原告が被告に対して賠償すべき損害額(ただし、弁護士費用相当の損害を除く。)は、前記一の損害額合計四〇三六万八〇四〇円から既払額二四四四万九八四二円を控除して得られる一五九一万八一九八円である。

2  弁護士費用

本件事案の内容等を考慮すると、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用相当の損害は一六〇万円であると認められる。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、被告に対し、前記第三の三1の損害額と同2の弁護士費用相当の損害額の合計である一七五一万八一九八円及びこれに対する本件事故発生の日である平成七年九月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める程度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井幸夫)

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